白湯の息抜き

　ついつい人を試してしまう、悪い癖があります。
　先日後輩の母親が運転する車に乗せていただいたのですが……。

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　その日は天候が悪く、路面に少し雪が見えました。
　なので、バイトに行くのにバイクには乗らずに歩いていきました。歩いて行くには少し遠いのですが、バイクに乗って滑って転ぶわけにはいきません。

　閉店時間が近づいて外を見ると、雪が降っていました。路面は真っ白。寒いです。
　その時、後輩のUくんが車で来たというので乗せてもらうことにしました。家の方向も同じですし。
　で、頼んだときにUくんは「うんいいですよ、じゃあ聞いてみます」
　「聞いてみます」………？　あれ？
　もしかして、自分で運転してきたんじゃなくて、親に送ってもらった？

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　閉店後、店の前で待っているとUくんの母親が運転する車が到着。
　てっきりUくん自身が運転してきたものだと思って気楽に頼んだのですが、親の運転する車となるとなんだか申し訳なくなります。ただ、引っ込みつかなくなって結局送ってもらうことにしましたが。

　動き出した車の中は、他愛もない雑談で盛り上がる。話しながら、ふと気付く。あれ、家の場所分かるかな？
　実はUくんの母親に送ってもらったのは初めてではない。いつだか、バイト先の飲み会の後、やっぱり親に送ってもらってきてたUくんと一緒にUくんの母親が運転する車に乗り、家まで送ってもらったことがあります。
　ただしそれもずいぶん前のこと。もう1年以上前だったと思うのだけど……。

　ここでどうにも私の悪い癖が出てしまいまして。
　よし、聞かれるまで何も言わないでおこう、と。
　車は走ります。明らかに私の家の方向に向かって。
　住宅街に入り、私の家までもう1分もないというところまできて、「あれ、どこの角を曲がるんだっけ？」
　私の家はもう目前。すごい、かなり正確に覚えている。

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　思えば、その日の私は名乗ってさえいませんでした。
　車に乗るときに挨拶もしたし、他愛のない雑談もしていました。でも名乗っていませんでした。

　Uくんの母親はしっかり私の顔を覚えていて、さらに家の位置もちゃんと覚えていたのです。
　これはなんというか……嬉しい話です。
　私の記憶が確かなら、最後にお会いしたのは1年以上前のことです。息子のバイト仲間。その程度の相手です。それでもしっかり覚えていてくれたこと、ありがたい話です。
　Uくん自身は私の家をあまり正確に覚えていないというのに。たまに間違えます、彼は。
　母親を見習え、このやろー。

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